桐野夏生「水の眠り 灰の夢」

出版社/著者からの内容紹介
昭和38年、東京。連続爆弾魔を追う村野に女子高生殺しの嫌疑が。親友の恋人への思慕を胸に真実に迫る、孤独なトップ屋の魂の遍歴
内容(「BOOK」データベースより)
昭和38年9月、地下鉄爆破に遭遇した週刊誌記者・村野は連続爆弾魔・草加次郎事件を取材するうちに、一人の女子高生の殺人事件の容疑者に。東京オリンピック前夜の高度成長期を駆け抜ける激動の東京を舞台に、村野の執念が追いつめたおぞましい真実とは。孤独なトップ屋の魂の遍歴を描く傑作ミステリー。
女性探偵ミロ・シリーズなのですが、父親の村善こと村野善三の話です。桐野さんはデビュー作「顔に降りかかる雨」
「水の眠り 灰の夢」
作者のコメント
ミロの父親、村野善三を書こうと思ったのは、村善が好きという声を聞いたせいでしょう。どうもミロが好きという声は、男性読者からはほとんど聞けませんでしたね。どうしてでしょう(笑)。村善の青春時代は昭和三十年代。ちょうど、私が東京に引っ越して来る前のことです。もともと高度経済成長時代に入る直前の東京とその頃の風俗にとても興味がありました。でも、大変だったのは資料集め。特に欲しかったのは写真資料でした。「メンズクラブ」の編集部に行き、「街のアイビーリーガーズ」という写真ページをコピーさせて貰ったり、当時の車雑誌を車の図書館まで探しに行ったり、映画を見たり、と走り回っていました。
でも、一番役に立ったのは、梶山季之さんの小説です。週刊誌創成期の頃の話でしたから、興味深かったです。べらんめえで喋る遠山軍団のボス、江戸っ子の遠山良巳のモデルは、梶山季之さんと青島幸男さんです。ミロの本当の父親、後藤伸朗のイメージは、梶山季之さんのライバルだった草柳大蔵さん。
アイビールックが流行った頃で、男の人が大衆的にかっこ良くなった時期でした。大橋歩さんの平凡パンチの表紙絵を眺めたりしていると、私の子供時代を思い出したりして楽しかったです。小説自体は、今思うと少し窮屈ですね。何と言っても犯人探しだからでしょう。それも、当時の大事件「草加次郎」は誰か、ということなのですから縛りが多過ぎて、私としては不自由でした。
ミロの父親は村善ではなかったという真実が語られますが、それは副産物です。書き始めた頃はそんなことを思ってはいませんでした。ただ何となく、ミロが村善と早重の子供だったらつまらないなと思っていました。途中で後藤の子供にしようと考えてからは、年代合わせであちこち調整する羽目になりました。
(インタビュー・構成 ミッシー鈴木)
この作品は非常に良かった。グッチャグチャ桐野作品とは違うミロ・シリーズですが(実はこの次の作品からグチャ度UPなんですが)、村善の生きた昭和30年代のノスタルジーとトップ屋の生き様が何ともカッコいい。そして、この作品は桐野さんが描く主人公として初めての男性でした。何かの作品で桐野さんは男性描写が下手と書きましたが、ここで訂正です。
トップ屋とは、30年代に「出版社系週刊誌の創刊によって宮仕えしない記者(新聞系)以外のフリーランスのトップ記事を書く記者」のことで、その後数年して姿を消していきます。記者クラブとか報道協定の外にいる人たちで、自分の能力で記事を書き上げていく様は圧巻。村善は実在の「梶山グループ」の一員としてフィクションとして仕立て上げられ、実際に起こった「草加次郎事件」も盛り込まれ、昭和30年の風景とともにストーリーは進みます。
自分が生まれる前の時代なので当然分からない部分も多いのですが、現代とは違う苦労や時間の流れ方、とても興味深い。そして村善とその親友後藤のやり取りなど、男として憧れます。そして、ミロってこうやって生まれたのか!といった驚き。
これ一作でも十分に楽しめますが、ミロ・シリーズとして読む衝撃もあるはずです。おそらくは、これ1冊だけを手に取るとミロ・シリーズという作品の副産物ということは分からないでしょう。でも、もしも興味があれば、是非前作2つを読んでから読むべしです。逆に村善に興味を持ってミロ・シリーズを読む人も出てくることでしょうが。
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